時間外労働の上限規制
これまで病院は医療職の自己犠牲によって支えられてきたといっても過言ではない。
限られた人員で多くの患者さんを診療するために毎日の残業が当たり前になっていました。
この一向に減らない残業時間に歯止めをかけるために国が規制を行った。
だからと言って緊急に診なければいけない患者さんがいるにもかかわらず「お先に失礼します」と言って患者さんを放って帰るわけにはいきません。
突発的な事態においてどうしても残業が発生してしまうことは医療の現場では避けられません。
常態化してしまっている残業をいかに無くしていけるのか。
仕事の効率化を図り、労働生産性をあげて医療の質を下げることなく、労働時間の短縮を図ることが病院における働き方改革の本質のひとつです。
リーダーの指揮のもと、部署ごとに、あるいは部署を超えて取り組むべき問題ですが、これまでのやり方を変えるというのは相当な覚悟が必要です。
抵抗する職員もきっと少なくないでしょう。
部署間の調整を行いながら部署の職員にも理解を求め巻き込みつつ、病院一丸となって取り組まないといけません。
一方で、優れた新しいルールが一度定着してしまえば、その先もずっと恩恵を受け続けることが出来るのです。
職員はプライベートを充実させることもできますし、病院も残業代の縮小が図れ、より良い医療の提供につながります。具体的に業務の効率化をどの様な手順で行ってゆけばよいのか?
「その1~課業を整理する~」
仕事には「課業」と「課題」の2つがある。
「課業」とは、日々定型的に行わなければいけない業務のこと。
ルーティーンといった方がわかりやすい。
「課題」とは、効率を図ったり、質の向上を図ったりするために業務の内容や手順を見直す取り組みのことを言う。
働き方改革にあたっては、仕事の見直しを図るわけですから当然「課題」に取り組まねばなりません。
まず、そのための時間を確保しなければならない。これでは仕事を減らそうとしたにもかかわらず、仕事が増えてしまい本末転倒です。
まず行うことは、課題に取り組むための時間を確保するためにも、「課業」の見直しから入ることが必要です。
身の回りの整理整頓を始める際に、いらないものを捨てる事から始めるように、仕事においても、不要なものからやめることから取り組む事が重要です。
直接患者さんにかかわる業務について、何かをやめるという事は難しいと思います。
そうでない業務、いわゆる「間接業務」について見直しを図りましょう。
例えば委員会・・・
病院には一体いくつの委員会があるのでしょうか。
法定委員会は必ず行う必要がありますが、それ以外の病院独自の様々な委員会があると思います。
月に10~20も参加しなければ委員会があるとしたら、その内いくつかを廃止してみてはいかがでしょうか。
設置時には必要だったけれども今は形骸化してしまって何となくやり続けているというのがきっとあるはずです。
委員会は多数の職員が参加するものですから、見直しを図ればとても大きな効果が期待できます。
他にも、無駄な記録をやめてみる、無駄な業務を省いてみる、無駄な手順を省略してみる といった、「これってもしかして無駄じゃない?」を片端からやめてみましょう。やめて支障があれば元に戻せばいいだけです。
大切なのは日々当たり前に行っている業務に対し、常に疑いを持ち続ける事です。
新しく入ってきた職員に「何か無駄に感じる業務はない?」と聞いてみるのも良いでしょう。
新鮮な視点からの意見は意外な発見があるかもしれません。
「その2~課題を解決する~」
無駄が整理できればある程度課題にかけることのできる時間が生まれます。
次に行うべきは「効率化」です。・・・
これまで行っていた事の質を下げずにできるだけ短時間でできるようにする。
まず委員会、全員で集まって行う会議は必ずその参加人数分の拘束時間が発生しますので、できるだけ中身の濃いものにしなければなりません。
全然発言しない人、あまり話を聞いてない人、最悪の場合居眠りしている人がいるのではないでしょうか。参加者は本当に必要な職員だけに絞りましょう。
会議後の議事録の共有がしっかりと行われていれば影響はないでしょう。
会議のポイントを短時間で確認することが出来る分、効率が良くなる。
委員会の目的をしっかりと定めて決められた時間でその目的が達成できるように事前準備を徹底しましょう。
アジェンダ(議事・議題)を必ず作成し、必要書類と共に事前配信しておくのが良いでしょう。
あらかじめ会議の目的が明確になり、参加者も事前に質問や意見を準備できるため、活発な議論が交わされやすくなります。
次に運営方法の改善も行います。
委員会の目的は3つです。①情報共有 ②ブレスト(アイデアを出す) ③意思決定
委員会の責任者は常に効果的・効率的な議事の進行を行う必要がある。
次に記録・・・
誰が見ても、誰が書いても正確な情報が一目でわかるように院内の記録方法を統一する。端的にポイントを押さえた記録ができるように内容のブラッシュアップを行う。
これには医師や上司からのフィードバックが欠かせません。
良い記録にはポジティブな評価を行って、職員同士で共有し、院内に効率的・効果的な記録を行う文化を根付かせる。
他にも医療職には医療行為と直接関係ない雑務が存在します。
PCスキルひとつとってもタイピング速度の向上や、ショートカットキーの活用など、ITリテラシーを高める生産性をあげる。
簡単な情報ツールはチャットツールで効率的に行えます。
セキュリティーに気を配ったうえで便利なツールは積極的に使い、できる限り短時間で質の高いコミュニケーションを図る。
今までやっていた仕事の中から、タスクシェア(仕事の共有)・タスクシフト(仕事の移譲)・アウトソーシング(外注)をチェックする。
例えば、金銭のICカード化・外来予約システムの導入・患者さんの衣服のクリーニングサービス・おむつの定期購入サービス・他科受診の付き添いサービスなど、院内職員が行っていた一つひとつを外注に切り替えてきました。
初期投資はかかりますが、無駄な残業が減らせれば、経営的にも充分なメリットがあります。
医療職が本来業務に専念できるようになることは医療の質の向上につながる。
患者さんの満足度が上がり、増患につながります。
患者・職員・病院もみんなが笑顔になるのです。
自分じゃなくても良い仕事はできるだけ他に任せて、自分じゃなければできない仕事に専念できる環境を作るようにする。
少子高齢化・デジタル化・グローバル化など、我々の周囲が大きく変化する中で生き残るために対応してゆく職場環境改善が求められています。
投稿者プロフィール
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・公益社団法人 日本医業経営コンサルタント協会
認定登録 医業経営コンサルタント
・BCP(事業継続政策)研究会所属
・病院組織改革研究会所属
・働き方改革改善
・増患及び集患に伴うマーケテイング分析
・診療圏、患者分析(用地診断・科目選定・用地開発)
・開業、法人化に伴うマネージメント
・施設建設に伴うマネージメント
・歯科経営(自費収入強化・訪問歯科推進・開業支援マーケテイング)
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